査拳 基本功法

査拳基本功法・操勢子(二十八勢)

  ここに紹介するのは、操勢子(ツァオシーズ)と呼ばれる査門に伝わる基本功法の一つである。この操勢子は言わば、査拳を始める前に行う準備体操の様な物であり、査拳の故郷である山東省冠県では、子供に武術を教える前の体作りとして練習されているものである。 二十八勢とあるのは、この運動がアラビア語の二十八の基本字母に準えて創編された二十八の姿勢から成り立っている為である。これは私が張錫太の関門弟子、張振強老師より口頭で伝えられた事であり、老師のお話によれば、今現在その大部分が失伝している可能性がある。ここでは、私が実際に触れた数種類のみを取り上げるが、何処から何所までの内容が操勢子に含まれるかは未だ不明瞭な点が多い事を先にお断りしておく。

第一式(前扶下)

 上 体を90°前に倒し、両手は伸ばして膝を押さえ上体を支える。 臂(うで) と腿(あし)は垂直に伸ばし、頭を上げ両目は平行に前方を見る。背中は平らにし、命門の辺りから前後に広がって行く様にする。胯を沈め、臀部は突出しない様にする(写真1)。腿部の筋肉が緊張する様であれば、膝を伸ばしたまま左右の脚を足踏みする要領で放松させる。

第二式(圧腿)

 片足は軽く屈し、もう一方の足は前に伸ばし踵を地につけ、爪先は上げる。膝は伸ばし、先ず両手で上から膝を圧し(写真2)、慣れてきたら、両手で脚の裏を抱え、額、顎の順に近付けて行く(写真3)。

第三式(抱腰双扎掌起蹲)

  并歩で立ち、両手は拳にして腰に置く(写真4)、徐々に蹲みながら両拳を前に推し出して行く。完全に蹲み込むと同時に両手を掌にして前に突き出す(写真5)。動作中は終止身体を地面と垂直に保つ様に心掛ける。両手を前に伸ばす時には胸部、背部、肩部を緩める。膝の放松を習得する事がスムーズに蹲むコツである。

第四式(三挺起蹲)

  前式と同じく并歩で立ち、両手は掌にして左右に開く。掌の小指側面はしっかりと真横に向ける(写真6)。そのまま徐々に蹲んで行く要求は第三式に同じ、慣れて来たら完全には蹲まず大腿部が地面と水平になった所で止める(写真7)。臂、身子、両腿の三箇所を挺ばす事(三挺)を意識する。

第五式(通天掌楼膝架打沖拳)

  馬歩で立ち両拳は腰に置く(写真8)。上に向かって大きく伸びをする様に、片手を掌にして天に突き出す(写真9)。動きを停めずに朴歩になり膝の上を払う(写真10)。弓歩になり掌は架掌にして上方を支える。片方の手は拳にして前方を突く(写真11)。また馬歩に戻り反対側も同じ様に行う。動きは連環して行い、手到眼到の口訣で言われる様に、目は必ず手の動きに連き従う。

査拳の站粧

  次に紹介するのは、査門の技術体系に見られる站粧功である。個人が修練を行うに当たり、その門派のどの功法を重視するかは、その人間によって異なるので、私はこの站粧功を重要な位置付けにあるとはしない。個人が普段の修練を補うべく取り入れるのが最良かと思われる。昔日の査拳名師の故事からは、各師が重要な練法として取り入れていた事が窺える。

1. 馬歩粧A

  馬歩の歩幅は、自分の脚の約三足分である。胯部を沈め、大腿は地面と水平にし、両脚は平行にし爪先は正面に向ける。膝頭は爪を越えない。両手は横拳にし、前に真直ぐに突き出す。両拳は肩と同じ高さとする。胸と肩は緩め、顎を少し引き頭は天を貫き頂勁を生じる。尻が出ない様に尾底骨を内にしまう(写真12)

2. 馬歩粧B

  要求はAに同じ。両拳は左右に突き出す(写真13)。

3. 弓歩粧(順歩)

  前足は大きく屈し、大腿部は地面と平行とする。膝頭は爪先を出さない様にする。後足は伸ばし、前足より拳一個分程の幅を取り、やや外側に踏み出す。膝はしっかりと伸ばし、爪先は外側に45°程開く。両手は掌にし、前後に突き出す。肘は下に落とし、両腕が一条線なる様に遠くへ伸ばす。上体は側面を向き、腰は反方向に檸腰によって後ろの腕が伸びる様に意識する(写真14)。

4. 弓歩粧(拗歩)

  要求は順歩に同じ。上体は順歩と反方向に檸り拗歩とす(写真15)。胯部が低く沈まない場合は歩幅を狭く取り高い姿勢から始めると良い(写真16)。

5. 湯瓶式

  これは回族武術を代表する站法である。その名の通り、イスラム教で礼拝前に禊を行う為の器具、湯瓶(図A)を形取った式である。査拳を含む、その他の回族武術門派にも多少の形状の違いはあるにせよ、同名の架式が存在する(図B)。 ここでは私が張欽明老師より教わった虚歩で行う湯瓶式粧功を紹介する。後足に全体重を乗せ、前足は爪先だけを地に付け虚歩とする。両腿の間は合わせる様にし、前足の爪先は微かに内側に傾ける。大腿部は水平に近付ける。これが湯瓶の底の部分を築く。上体は傾斜せず、しっかりと直立させ湯瓶の胴部を形成する。頭部は天を貫く様に高く持ち上げ、頂勁を意識する。これは湯瓶の蓋となる。虚足側と同じ方向の手を立掌にし前に推し出す。両眼はこれを注視する。脇を締め肘は下に落とし外に広がらない様にする。これは湯瓶の注ぎ口である。もう一方の手は拳或いは掌にして腰の上に置き、湯瓶の把手とする。肘は後方に張り、潰れない様にする(写真18)。  

  以上、山東査門に伝わる站粧功を簡単ではあるが説明させて頂いた。これは全ての老師方が共通して言われる事だが、站ち方の訓練という物は要求を守り、規矩に沿って行う所に意義が有るのであり、要求を満たさずに、漠然と長時間の修練をしても、それは時間の浪費である。故に30秒でも1分でも良いから、しっかりと要求に沿って練習する事が肝要である。

今回のまとめ

  査拳は広く荒涼たる大地によって育くまれた気質を忍ばせる。非常に機動性に富む武術である。全身を最大限に大きく、又は小さく使い、高い動作は天を貫く様であり、低い動作は海底に沈むが如くである。進退は自在であり、その歩法は軽霊である。その鋭さは外的には手、眼、身、法、歩、内的には精、神、気、力、功に現われる。今回、紹介させて頂いた基本功は、査拳の舒展大方という重要な特徴の一つを開発、練習する上で、とても有用である。舒展には広げる、伸ばすという意味があり、大方には鷹揚である。すっきりしているという意味がある。張欽明老師の言を借りるならば「自然」という事が非常に重要な要素であると思われる。同道の志に於かれては、この事を念頭に置いて修練に励まれる事をお薦めする。

全日本中国拳法連盟 査拳指導員 大島睦弥